友人と行った登山中での出来事
なるかみこ@narukamiko
その山は、正式な名前を知らない。
地元ではただ「裏山」と呼ばれていた。不思議なことに、登山口だけがやけに立派だった。新しい木製の看板、手入れされた石段、そして「遭難注意」の文字。
だが、国土地理院の地図にも、登山アプリにも、その登山道は存在しなかった。俺がその山に入ったのは、写真撮影が趣味の友人・佐伯に誘われたからだ。
「朝霧がすごいらしい。見たことない景色になるって」
平日の早朝、登山口には俺たち以外、誰もいなかった。登り始めてすぐ、違和感に気づいた。
なるかみこ@narukamiko
音がない。鳥の鳴き声も、風の音も、自分たちの足音だけがやけに大きく響く。
「静かすぎないか?」
そう言った瞬間、前を歩いていた佐伯が立ち止まった。
「……今、後ろから誰か来なかった?」
俺は振り返ったが、誰もいない。ただ、石段にもう一人分の足跡があった。しかも、俺たちより少し大きい。中腹あたりで、霧が一気に濃くなった。
数メートル先も見えない。だが、不思議と道だけははっきり見える。その霧の中で、低い声が聞こえた。
「……そっちは、ちがう」
振り向くと、霧の奥に人影が立っていた。
なるかみこ@narukamiko
古い登山服の男。顔は帽子の影で見えない。
「この道で合ってますよね?」
そう聞くと、男は首を横に振った。
「おまえらは、もう登ってない」
意味がわからなかった。次の瞬間、男は霧に溶けるように消えた。その直後、佐伯がポツリと言った。
「……俺、いつからここにいるんだ?」
スマホを見ると、撮影したはずの写真が全部消えていた。代わりに、保存されていた動画が一つだけあった。
なるかみこ@narukamiko
再生すると、霧の中を歩く俺たちの後ろ姿が映っている。だが、撮影者の視点は、常に一段高い位置だった。頂上に着いたとき、そこには何もなかった。
展望台も、標識も、景色もない。ただ、地面に古い石碑が倒れていた。掘られていた文字は、半分風化している。
「此処より先かえりは みちをしらぬ者」
下山しようと振り返った瞬間、登ってきたはずの道が消えていた。代わりに、同じ形の道が三本伸びていた。どれも、「下山道」と書かれている。気づいたら、俺は一人で登山口に立っていた。
なるかみこ@narukamiko
佐伯はいない。時間は、山に入る直前の早朝だった。スマホには、佐伯から未送信の音声データが残っていた。
「……俺、まだ山にいる」「下、もう一人いるだろ」「あれ、誰だ?」
今もその山の登山口はある。だが、入った人間の話を佐伯から聞いた者はいない。
ななし@K8dP2L
地図にない登山道はガチでやばい現実でも絶対入らん
ななし@Zp3M0x
「おまえらはもう登ってない」って台詞、時間ズレてる系で怖すぎ
ななし@R7Wm9A
撮影者が一段高い視点っての、人じゃない感あってゾッとした
ななし@tQ4sVe
下山道が三本あるの嫌だな、どれ選んでも正解ないやつ
ななし@F2Nsa0
佐伯、今も山にいると思うと後味悪すぎ
裏山って名前が一番怖いわ


