赤子トンネルには行ってはいけない
なるかみこ@narukamiko
「お前さ、“赤子トンネル”って知ってる?」
高校の文化祭の準備中、同級生の川本がそう言ってきた。場所は、隣町との境にある旧峠道の廃トンネル。正式名称は「飯母(はんぼ)隧道」っていうらしいけど、地元では“赤子トンネル”の名で知られてる。由来はこうだ。
かつてトンネル工事の際、崩落事故が起き、作業員数名とその家族――中には赤ん坊を背負った女性もいた――が生き埋めになった。
以来、トンネルに入ると、赤ん坊の泣き声が聞こえる、出口が消える、同行者の顔が変わる…など、さまざまな噂が絶えなかった。
「行ってみようぜ。肝試しってことで」
川本と俺、それに中島と綾音の4人で、夜10時に集まることになった。
なるかみこ@narukamiko
現地に着くと、峠道はすでに舗装が剥がれかけていて、草が生い茂っていた。トンネルの入り口はコンクリート製のアーチ。かつては封鎖されていたらしいが、今は柵もなく、簡単に入れた。入口の上には、崩れかけた石碑があり、風でめくれた御札の端がパタパタと揺れていた。
「…誰かが供養しようとしたんじゃね?」
綾音がそう呟いたが、川本は構わず中へ進んでいった。中は真っ暗で、湿った土とカビの匂いが充満していた。スマホのライトで照らすと、壁には手形のような跡が無数に広がっていた。途中まで進んだ時――俺は、赤ん坊のような泣き声を聞いた。
「……あぁ……ぎぃ……ぎゃあ……」「今、聞こえたよな……?」「録れてる、たぶん録れてる……!」
中島が録音アプリを確認していた。
なるかみこ@narukamiko
そのとき、俺たちのスマホの時計が一斉に0:00を示した。そして、トンネルの奥から、“ガチャン”と何かが落ちる音。綾音が青ざめた顔で言った。
「今、赤ちゃん……立ってた……」
綾音の頬がぶよぶよと膨らみ、赤子が泣くような声でくぐもった笑い声を漏らしている。暗いトンネルにライトが揺れ、川本と中島が後ずさった。
「ままぁ……あった……」
綾音の口がぱくぱく開閉し、歯の隙間から黒い液が垂れた。その背中で制服が膨れ、何かが中から手足を突き出しているようだった。
なるかみこ@narukamiko
逃げ場を探して奥へ走り込むと、崩れた壁の向こうに小部屋が見えた。中島が瓦礫をどかすと、中に朽ちた木箱と古い紙束。そこには施工責任者の手記が残っていた。
「崩落は人災。作業員家族を隠し、事故として埋め戻した」「赤子の遺体は見つからず。母親は『まだ泣いている』と発狂」「夜ごと壁の中で声が聞こえる。“出して”と」「封札を貼り 赤子を“ここ”に置いていく」
木箱を開けると、中には石と一緒に包まれた小さな頭蓋骨。薄い乳歯が残り、口の内部にはまだ乾かぬ黒い泥が詰まっていた。
なるかみこ@narukamiko
その瞬間、トンネル全体が低くうなり、壁の手形が血のようににじみ出した。綾音が木箱を見て、幼児の声で囁く。
「ほら、ママがいるよ。だっこして?」
口のない顔に、細い指がずるりと這い、首の後ろで“赤子の後頭部”が膨れ上がる。その頭部がずり下がり、綾音の胸元に抱きつく形になった。
川本が恐怖で錯乱し、ライトで綾音を殴ろうとした瞬間、綾音の影が伸び、川本の腕を捕まえた。
バキッ
なるかみこ@narukamiko
骨の折れる音。川本が悲鳴を上げ、水を吐きながら倒れる。赤子の泣き声が、喜ぶように高くなる。中島と俺は川本を引きずり、元来た方向へ走った。だが出口までの距離は、いくら走っても縮まらない。トンネルは無限に伸びているようだった。
足元には濡れた足跡が増え続け、壁からは乳白色の小さな手が突き出し、俺たちの足を掴もうとする。
「置いていけ……置いていけ……」
赤子のコーラスが重なり、頭が割れそうに響いた。
なるかみこ@narukamiko
中島がふと立ち止まり、呼吸も荒く俺に言った。
「おれが止める。…お前ら出ろ」
「無理だって、出口」
「川本はもう持たない。誰かが“抱いて”やらないと、終わらねぇ!」
中島は川本を背負い、泣き声の方へ歩み寄った。ライトの輪の中で、綾音の体はすでに赤子と同化し、三つの頭と六本の腕がずるずる蠢いていた。中島は川本を抱かせるようにその化け物へ差し出した。生暖かい闇が一気に吸い込むように彼らの姿を飲み込む。
最後に聞こえた中島の声は、「お前だけは戻れ!」それきり、泣き声も手形も消えた。
なるかみこ@narukamiko
気づくと、俺はトンネル入口の外で倒れていた。スマホの時計は朝4時22分。出口は、崩れた柵の向こうに確かに存在していた。トンネルを振り返ると、入口の上の石碑に新しい御札が一枚貼られていた。
墨で一文字――「置」。
川本・綾音・中島は行方不明。警察は事故と判断し捜索を打ち切った。録音していた中島のスマホだけが見つかり、最終ファイルには微かな赤ん坊の声と中島の呟きが残っていた。
「これで……あかごは……ひとり……」
俺は今でも夜になると、トンネルの方向から赤ん坊の泣き声を聞く。そして決まって、スマホの通知
「つぎは だれを だいてくる?」
ななし@8Qf2LZ9
赤子トンネル系は多いけど、この「抱かせて連鎖を止める」設定は新鮮で怖いわ…
ななし@a7M0XK3
顔のない赤ちゃんと同化する描写、ガチで鳥肌。映像で見たらトラウマ確定
ななし@R4T9bC2
“置”の一文字御札、センス抜群。誰かがまた剥がしたら地獄再開とかヤバい
ななし@5N1HqE8
最後の通知文シンプルに震える。「だいてくる?」って言い方エグい
ななし@Z6JY0dW
久々に心霊スポット行くのやめようと思った…夏に読むにはキツい怖さ


