大学のゼミで訪れた村には、とある呪いが
なるかみこ@narukamiko
大学の民俗学ゼミで扱った、とある山間の廃村。その名は「響村(ひびきむら)」。
現在は完全に無人だが、かつて“やまびこの神”を信仰していた独特の村だった。反響する声を神の声とし、一定の手順で唱えた言葉だけが“神託”として許されていたらしい。
僕たち学生4人と准教授の赤羽先生で調査に向かったのは、晩秋のことだった。村へ続く林道はすでに崩れており、途中からは徒歩で向かった。獣道のような道を1時間ほど登ると、突如視界が開け、谷あいのくぼ地に古い鳥居が現れた。
その奥に、崩れかけた社と数件の木造家屋が残っていた。
なるかみこ@narukamiko
「ここの人たちは、“やまびこ”を神として祀ってたんだよ。
でも、変な風習があってな……“自分の声”を捧げるんだって」
赤羽先生の話によると、この村の信仰は他と大きく違っていた。
言葉を交わす際は、山に向かって“やまびこ様”に先に挨拶する。
“反響して返ってきた自分の声”をもって、初めて会話が許される。
返ってこなければ、黙って生きるしかない。
なるかみこ@narukamiko
村の中心にある祠には、異様な構造があった。内陣に人が入ると、外にいる人には“音が反響して聞こえる”だけで、中の声が聞き取れない。まるで“声の霊堂”のようだった。
その夜、村の元・住民という老女から聞いた話が印象的だった。
「うちはな、あの山からやまびこ様を借りていたんや」
「けど、ひとり、借りすぎた者が出た。そしたら声が戻らんようになって…村ごと終わった」
赤羽先生は「借りすぎた者」という言葉に強い興味を示し、その晩、一人で祠の中に入っていった。彼の声は、反響していた。
けれど、“返ってこなかった”。
なるかみこ@narukamiko
その夜から、僕たちは夢で赤羽先生の声を聞くようになった。山の奥から、何かがこちらを呼んでいた。翌朝になっても、赤羽先生は戻ってこなかった。祠の中に入ったまま、返事がなかったのだ。
中に入っても先生の姿はなく、代わりに、奥の石壁に無数の“手形”が浮かんでいた。泥のような、灰のような…人の手の跡。
声を出すと、祠の中はやたらと反響する。だが外に出ると、なぜか何も聞こえない。
「なあ、昨日さ、先生が喋ってたの聞いたか?」
「……聞いてない。てか、あれ“聞こえなかった”んじゃなくて、“返ってこなかった”んだと思う」
そのとき、メンバーの一人・春日が言った。
「昨日から、先生の声が頭の中に反響してんだよ」
「“借りた声、返せ”って…ずっと…」
村を調べていくうちに、蔵の中から古い記録帳が見つかった。
なるかみこ@narukamiko
それは“やまびこ講”という宗教団体の記録だった。どうやらこの村は、近代以前に「響神(ひびきがみ)」と呼ばれる存在を祀っていた。
『響神は山に棲む。声を借りる者は、耳に入れ、口を封じ、反響に従う。返さぬ者には、神が宿る』
記録によると、信者の中に“声を返さぬ者”が出たとき、神はその身体を器として選ぶ。するとその人物は、自身の言葉を持たず、周囲の声を模倣するようになっていく。
春日が突然、笑い出した。
「なあ、俺さ、たぶん“借りた”んだよ。反響が……止まらないんだ」
彼は喉を押さえてうずくまった。口元から、泥のような黒い液が流れていた。その夜、春日も姿を消した。
なるかみこ@narukamiko
翌日、祠の前に黒い泥で書かれた言葉が残されていた。
「俺の声を、返してくれ」
赤羽先生と春日の失踪を警察に通報することはできなかった。理由は簡単だ。彼らが“存在しなくなっていた”からだ。
ゼミの記録から名前が消え、SNSや写真にも写っていない。まるで初めからいなかったように。
でも、俺たち残りの2人――高橋と俺――には記憶がある。そして、日が経つごとに、俺の中にも“反響”が住み始めていた。
ひとりになると、頭の中に誰かの声が反響する。最初は赤羽先生の声だった。
なるかみこ@narukamiko
だが徐々に、俺自身の声に変わっていった。それは会話ではない。ただ“自分の言葉をなぞるような音”が、脳内に居座る感覚。
ある日、高橋が言った。
「声って、脳でしか鳴ってないらしいぜ?外に出してると思ってるけど、聞こえるのは自分の中だけ」
彼はそれっきり口をきかなくなった。…いや、きけなかったんだと思う。声が“返らなくなった”のだ。その日の夜、高橋の部屋に向かうと、壁一面にこう書かれていた。
「反響が神なら、沈黙は地獄だ」
俺は覚悟を決めて再び響村へ向かった。例の祠の奥には、“返しの穴”と呼ばれる土間のような場所があった。村の記録によると、最後に響神に返せる方法はただひとつ。
“返したい声を、ひとつにまとめて山に捧げる”
俺はポータブルスピーカーに、赤羽先生、春日、高橋、そして自分の声の記録を流した。
それを反響の穴に向けて鳴らし続けた。
なるかみこ@narukamiko
すると、山全体が音を吸い込んでいくように静かになった。…沈黙のあと、地鳴りのような低い音が返ってきた。それは“誰か”の声じゃなかった。山そのものが反響していた。そしてその夜から――俺は、喋れなくなった。
声は出るのに、誰にも届かない。録音しても何も入らない。自分の声は、自分の中にも残っていない。
そして、鏡を見ると時々、赤羽先生が立っている。俺の口を借りて、誰かに“返している”らしい。君がこの話を聞いたなら、もう“音”は伝わっている。何かが返ってきても、返事はしないでくれ。
それが“やまびこの神”との最後の約束だ。
ななし@A9fK2LQ
自分の声が返ってくるって、普通なら安心するのに、ここまで怖くできるのすごい
しかも返ってこなかったら終わりっていう設定がじわじわ効いてくる
ななし@m3Z8T0x
「沈黙は地獄」ってマジで名言だと思う
ラストの“声が出るのに届かない”って描写、めちゃくちゃ不気味で好き
ななし@R7pW4E1
てか赤羽先生…全部わかっててやったんじゃね?
信仰に取り憑かれてたっぽいし、自分を“神の声”にしたかった説あるな
ななし@bN6C2Y9
“反響”が信仰になるって田舎の山奥なら普通にあり得る話に思えるのが怖い
ななし@0Hq5JdS
「自分の声を返される」って本来は安心の象徴なのに
それが“侵食”になるのって宗教系ホラーとしては完璧なオチだったわ続編あったら読んでみたい


